私は群馬県下仁田町在住の彫刻家、三輪途道(みわ・みちよ)です。このたび上毛新聞社刊で「祈りのかたち」という本を出版したいと思います。この本は国宝や重要文化財などの指定物件にとらわれず、また飛鳥、天平時代などのような古い制作年代にとらわれることなしに、彫刻家の現場目線で魅力的なお像を紹介する本です。一方で、この本は視覚障がい者が読める本の機能も持っています。本を右からめくれば、白紙に黒文字の一般書籍になっており、左からめくれば黒紙に白文字の視覚障がい者用の本になっていて、2種類の本が1冊に合本されたものになっています。私自身が視覚障がい者であり、通常の書籍では読めない理由から視覚障がい者の人でも本が読めるように模索して作りました。
私は群馬県の仏像などの文化財の修理保存の現状を皆さんに伝えたいという思いと、視覚障がい者がどうすれば本を読むことができるかを皆さんに問いかけ、理解していただきたいのです。そして、私の本を読んだ方が文化財に関心を持っていただき、さらなる視覚障がいデザインを発展させていただきたいのです。私が投げる球は、小さな小石くらいのものですが、どなたか心ある方が声を上げていただけることを願っています。
クラウドファンディングの目標金額は252万円です。「祈りのかたち」の制作でかかった出版費用(印刷、製本、流通)の不足分に充てさせていただきたいと思っています。
クラウドファンディング期間とほぼ同時期の9月11日(土)~11月7日(日)まで、富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館で夫の三輪洸旗と「三輪洸旗・途道展 ―富岡から世界を紡ぐ」を開催いたします。館内の市民ギャラリーでは今回の本づくりの関連展として「祈りのかたち 三輪途道・寺澤徹(寺澤事務所)展」を開催し、この会場でクラウドファンディング商品を実際に確認することができます。ぜひ、こちらの展覧会もご高覧よろしくお願いいたします。
皆さまのご協力、ご協賛を切に願います。
猫にひかれて
私はこれまで、東大寺(奈良県)や日光山輪王寺(栃木県)の仏像から、飼い猫や衣服といった生活に身近なモチーフまで、のみを握り多彩な彫刻作品を手掛けてきました。彫刻家として本格的に活動するようになってからは、等身大の自分を出そうと生活圏内にあるものを彫り続けてきました。特に、野良猫のように傷跡やノミだらけの猫にひかれて、くしゃっと表情の野性味あふれる猫を何度も題材にしています。
子育てをしながら20年近く夢中で彫り続けていました。しかしある時、ふと目が見えなくなっていることに気付きました。網膜色素変性症でした。
かすかな光で
「今、作品を作るためにはどうしたらいいか」と冷静に考えました。かすかに見える光で白黒は識別できたため、2年前からは黒色のクレヨンやパステルでドローイングを始めました。最初は日用品や食べものがモチーフでしたが、次第に仏画のような宗教的なものを描くようになりました。さらに昨年春からは粘土を使うようになりました。漆を塗った麻布を粘土に直接張り込んでいく古典的な脱乾漆は、興福寺(奈良)の阿修羅像に代表される仏像作りに用いられる技法です。
これまで、仏像作りはあくまで仕事でした。しかし、目が見えなくなったことで心から「祈り」をかたちにしたくなりました。それは、自分本位の制作に対する懺悔の表れなのかもしれない。自分のためではなく、人に作品を届けたいと思うようになりました。
あの連載を再び
私は、不完全燃焼のある仕事を抱えていました。それは、上毛新聞社発行の文化情報誌『上州風』(1999-2010年・季刊)の29号から32号まで連載した「祈りのかたち」が、本誌の休刊により中断してしまったことです。榛名神社随神像や小金銅仏、山王廃寺塑像、養蚕の神様、十一面観音像と、県内各地のお像を紹介するエッセーでした。次第に目が見なくなっていく自分が本を作ること。自分の本がたとえ完成したとしても、それを読めないかもしれない。それでも、「祈り」をかたちにすることへの欲求は日増しに高まっていきました。10年以上の時を経て、そして再び「祈りのかたち」は動き出したのです。
LOW VISION BOOK
LOW VISION (ロウ・ビジョン)。 聞きなれない言葉だと思います。
LOW VISIONとは、視覚に高度な障害があるものの、完全に視力を失ってはいない状態を指す英語です。
今現在の、私です。30代後半から徐々に視野が欠ける目の病を患い、約15年の経過の中で、新聞や一般書籍など活字を読むことは難しくなりました。もともと読書好きな私は、「読む」ということに愛着を感じています。物が見えにくくなっても、白と黒の光の差異で何とか文字の認識はできます。点字や音声に翻訳された点字本や音読本類もかなりの数が点字図書館に所蔵され、日々、利用されています。いずれ、そうした本で読書を楽しむ日も来るかと思いますが、今の私はインクの匂いを嗅ぎながら、紙の手触りを確かめつつ本を
読みたいと思いました。
読めないかもしれない私が、読める本を作りたい。こんな相反した希望が、このたび叶えられることになりました。視覚に障がいがある人が読める本、すなわちLOW VISION BOOKです。一般向けの書籍との合本というスタイルにするため、いくつか特徴を持たせました。
視覚障がい者は縦書きよりも横書き文章の方が読みやすいというデータから、文章は全て横書きにしました。縦書きにした一般向けの本は右開き、横書きのLOW VISION BOOKは左開きとなります。この2冊を1枚の表紙でくるみました。視覚に障がいがありますと、新聞や教科書などに使われる明朝体のような太さが均一でない字はとても読みにくく、逆に、線を塗りつぶしたゴシック体の太文字は読みやすくなります。そのため、この本では太●ゴシック体を採用し、字画の多い込み入った漢字はその文字だけ少し大きいサイズのものにしてみました。
また、白の紙に黒文字とするより、黒い紙に白文字にした方が読みやすくな りますので、LOW VISION BOOKは全ページ黒地に白文字となっています。 さらに視野が狭いため文章の行替えが分かりづらく、何度も同じ文章を読んで しまうことが多々あります。行替えをスムーズにするためには、たっぷり行間 を空ける必要があるのですが、それですとページ数を必要とするため、LOW VISION BOOKでは文章の下に罫線を引いて文の位置を把握しやすくしました 。画像はモノクロにして、いくつかは、白い輪郭線を引いています。眼の病の進 行が進むと、モノクロでも画像の内容を認識することができなくなってきます 。 例えば、空と山が描かれている画像があったとします。ほとんど見えなくな ると、空は白く山から下は黒くしか見えません。山と空の境界線は認識できま すが、山の画像の中に家があったり、川が流れていても認識できません。それ を認識するために、山の内側にある家や川に輪郭線を引けば画像の内容を理解 する手助けとなるのではないかと考えました。輪郭線が不要の方は一般向けの 本の画像で確認していただけるようになっています。 視覚障がい者といっても、見え方は一様ではありません。加齢黄斑変性症の 患者さんのように視野の中心部が欠損してしまう病ですと、LOW VISION BOOKでも読むのは難しいと思います。かといって、全ての方が点字を読める わけではありません。点字を読めるのは視覚障がい者の10%くらいの方のよう です。大人になってから見えなくなった場合、点字をマスターするには長い時 間が必要となります。私も点字は読めません。
最近はデジタル本もありますが、視野が狭い人にとっては拡大縮小している うちに何が何だかわからなくなり、結局タブレットは放り投げてしまう始末で す。LOW VISION BOOKはできるだけ単純に、手でしっかり本を握って紙をめ くりたい自分の思いと、他の病の方の最大公約数を考えて作りました。 視覚に障がいのある方に読んでほしいのはもちろんですが、本作りに関わる 編集者、デザイナー、出版社、本を愛する全ての方にLOW VISION BOOKにつ いて関心を持っていただきたい、視覚障がいデザインがさらに発展してほしい という願いを込めました。できるだけたくさんの方がこの本を手に取ってくだ という猫の作品を制作しました。ぜひお手に取って楽しんでいただければと思 います。 多くの方のご支援、ご協力よろしくお願いします。
クラウドファンディング商品等詳細は上毛新聞ハレブタイ
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